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レトロ語彙編に引き続き、青蛙亭流のおすすめ辞書を選んでいきましょう。今回は台湾華語(台湾国語)編です。 台湾華語とは何ぞや、という議論も必要なのですが、それは別の機会に別のページでまとめることとして、とりあえずここでは「台湾の公用語である“国語”の、印刷された辞書などで確認できる、スタンダードな音韻・語彙・語法」という程度を確認して先に進みます。 学術論文では「台湾国語」と呼ばれることも多いですが、「台湾華語」という呼称は、日本で唯一の参考書である『指さし会話帳』(後述)シリーズでの言い方に準拠しております。
残念ながらいま日本で出ている中日・日中辞典はすべてアウト。台湾華語対応をうたっているものは一つもありません。中日辞典の中には〈方〉つまり方言という印をつけて掲載しているものもありますが、どこの方言かを書いていないため、台湾華語でそういうのか、それとも大陸のどこか一部の地域でそういうのかは全くわかりません。また、台湾華語特有の発音の違いはまるきりわかりません。 そこで台湾で出ている辞書に頼ることになりますが、大方の人は、もう大陸の普通話で中国語の初等文法を一通りやったことと思われますので、普通話と台湾華語との違いを中心に勉強したり調べたりということになります。 とすると、「××は台湾華語でどう言うか」つまり日中辞典タイプで台湾華語に対応したものを主体とし、字音の違いを調べたり読解に役立てるために中日辞典または中中辞典タイプのものをサブで使うというのがよいでしょう。 情報センター出版局から出ている「指さし会話帳」シリーズ(リンクは公式ページ)はご存知のことでしょう。「そんなの辞書じゃないや」という声が聞こえてきそうですね。はい、辞書じゃありませんし、語学参考書ですらないかもしれません。しかし、これを除いてほかに、日本で出た台湾華語の参考書や辞書は存在しないのです。 実は青蛙亭主人は「旅の指さし会話帳」シリーズを高く評価しているので、これしかないという消極的理由だけでなく、実用的に台湾華語の会話が勉強できる名著として積極的に推薦します。まずはこのシリーズの「台湾」をそろえておきましょう。 旅の指さし会話帳8台湾[第二版] 食べる指さし会話帳4台湾 指さし会話帳ですから本文自体が絵入り日本語→台湾華語という形になっていますが、さらに巻末には日本語→台湾華語の語彙集がありますので、まずこれを全部覚えてしまいます。「あれ、こんなの知らないや」というところを念入りに。 次に台湾で出ている日中辞典を買いましょう。私が愛用しているのは『新時代日漢辞典』(大新書局。2007年。960TWD。写真)。たとえば「自転車」をひくとちゃんと「腳踏車」です。「自行車」なんて載っていません。台湾では日本語を勉強する人が多いので、日中辞典は台湾人にとって役立つものが求められますし、実際に日中辞典は数多くありしのぎをけずっているのでよい辞書が多いです。ですから訳語は台湾人にとって役立つ訳語、すなわち台湾華語になっちゃうわけですね。 そのかわり発音は載っていません。すべて繁体字中国語です。ですから発音の違いを知るには次の「台湾の中中辞典」を使うことになります。 逆に台湾では中日辞典は日中辞典ほどには需要がないため、日本の中日辞典をそのまま流用するケースが多く、日本人にとってはあまり役に立ちません。たとえばこの大新書局から出ている『新時代中日辞典』は、三省堂のクラウン中日辞典のコピーです。もちろん正式にライセンスを得てコピーしているわけですし、簡体字は繁体字になり、オリジナルの四角号碼表示は倉頡コード表示に変わっているなどいろいろ興味深い変更がありますが、見出しの中国語まで台湾華語に変えているわけではありません。 同じ漢字で書かれた文章でも台湾華語の音は普通話と微妙に異なります。一般に台湾人はzh(ㄓ),ch(ㄔ),sh(ㄕ)というそり舌音が苦手でz(ㄗ),c(ㄘ),s(ㄙ)とごっちゃになってしまう(r(ㄖ)はズーのようになる)など、さまざまな発音上の特徴がありますが、それらは一応区別されるべきものとなっているのですからいわば「なまり」にすぎません。そうではなく、辞書に載っている規範的な音からして違うというのがいろいろあるのです。 こういうのを調べるには台湾で出た中日辞典ないし中中辞典に頼ることになりますが、上述のように台湾の中日辞典事情はかなりお寒いので、中中辞典つまり国語辞典ということになります。 しかし実は台湾では国語辞典事情もお寒いのです。もちろん国語辞典は数多く出ていますが、ネイティブが表記を調べたり大雑把な意味を調べるための実用辞典と、子ども向けの教育辞典が主であり、外国人にも有用な辞書は皆無と言ってよいほどです。大陸の『現漢』に相当するような規範的な辞書も特に存在しません。 ここで我々の最大の目的は、台湾華語特有の事項を調べることです。語彙そのものについては実用辞典などであっても役に立つ場合がありますが、字音(特に軽声化)やアル化の有無などは実用辞典にはまず載っていません。実用辞典では見出し字の字音しか載っておらず熟語の音を載せていないなどということも珍しくありませんし、たとえ熟語の音を載せていても、本当は軽声で発音するところも本来の声調を記すのみだったりします。ましてアル化の有無はまず載っていません。 そんな中で我々に役立ちそうものは次の二つです。 台湾の教育部、つまり日本でいえば文部科学省が出している国語辞典ですが、現行のバージョンは紙媒体が存在せず、CD-ROMとネットしかありません。そのCD-ROMも入手不能のようで、要するにネットでしか見られないということです。無料で誰でも見られるのでいいのですが、よくも悪くも台湾らしい話です。つまり、IT立国の台湾らしくもあり、国語の規範の整備に無関心だった台湾らしくもあるということです。 当サイトのリンク集にもリンクしていますが、 重編国語辞典修訂本(http://dict.revised.moe.edu.tw/)がそれです。 「公的機関がかかわっている辞書が無料で利用できるんだから十分!」と満足できればいいのですが、実はなかなかそうもいかず、他のソースにもあたったほうがよさそうです。特にアル化の有無に関しては絶望的に載っていません。逆に軽声化についてはしっかり載っています。 國語日報出版中心主編。國語日報社。2000年。750TWD。 國語日報というと新聞社のような気がします。実際新聞も出していますが、http://www.mdnkids.com/というURLから推測かつくように、8-15歳つまり日本でいう小中学生を主要読者とする新聞です。つまり国語(もちろん台湾華語です)の普及のため子ども向けにオール注音符号ルビつき新聞、雑誌、書籍を販売したり、教育を行ったりする団体です。 辞書としては大人向け字典の『國語日報字典』、子ども向け字典の『國語日報學生字典』もありますが、さしあたりわれわれは単字だけでなく語彙が必要なので、『新編國語日報辭典』を選びましょう。 軽声化する語彙についている振り注音符号は原則として軽声ではなく本来の声調ながら、説明文中に「×字輕讀」「×字常輕讀」「×字也可輕讀」などの表現で軽声化を明記しています。さらにアル化する語彙は積極的に語彙に(兒)を明記しています。 (台北)中華語文研習所、(北京)北京语言大学主編。 中華語文出版社、北京语言大学出版社。2003年。980TWD/86CNY。写真は左が台湾版、右が大陸版です。 大陸、台湾合同編集の辞書。大きな特徴は、★(大陸専用語彙)、▲(台湾専用語彙)のような形で一方でしか使われない語彙を明記していること、字音が異なる場合は「台湾/大陸」(大陸版は逆順)のような形で明記していること、違いだけでなく共通のものも載せているので『現漢』など他の辞書を併読する必要がないことです。 配列はローマ字順。台湾版もピンイン順ですが、台湾式字音順になっています。 説明文は大陸版は簡体字、台湾版は繁体字です。 軽声化、アル化は積極的に表記していますが、台湾のほうの表記も大陸の表記にひきずられており、「大陸ではアル化するかもしれないが台湾じゃアル化しない」という語があったとしても明記されているわけではありません。 これはぜひ手元に置いておきたい辞書です。台湾版は2006年に改訂され、巻末に語彙が追加されています。そういうこともあってできれば台湾版がほしいところですが、大陸版にくらべて台湾版はべらぼうに分厚く、持つと手がかなり疲れます。それから配列が台湾式発音順なので、両者の違いを知らないと見つけるのに苦労する文字があるので、大陸版も捨てがたいところです。もっともいま大陸版は入手が困難になりつつあるので、日本の中国専門書店のほうが入手しやすいかもしれません。 日本国内の中国書籍取扱店は台湾書籍に冷たいし、頼むと遅いし、高いです。1ヵ月以上待たされたうえで1TWD=9円!(本来は3.4円程度)換算の値段なのでべらぼうに高くなります。 そこでネット通販を利用しましょう。「リンク集」にある台湾書店のネット通販を利用するといいです。私が利用しているのは三民網路書店です。在庫があれば1週間もかからずに送ってくれます。ネットでは書籍定価の1割引になりますが、送料がけっこう高く、一律にこの割引価格の3分の2を取られます。そうすると最終的な値段は0.9×5÷3=1.5、つまり定価の5割増になります。たとえば1000TWDの本なら1500TWD。1TWD=3.4JPYとすると5100円。中国書籍取扱店で買ったら9000円ほどしますので半額の値段で買えることになります。 この他、リンク集に掲載している書店の送料は以下の通りです。 台湾書店だから台湾の本しか買えないなんてことはありません。香港の本も買えれば大陸の本だって買えます。しかも香港や大陸のネット通販とたいした値段の違いがないので、いろいろ買うのなら全部まとめて台湾書店を利用してもよいほどです。 台湾書店で書物のデータを見るときは日付に注意しましょう。89/07/01と書いてあるときは、1989年7月1日ではない可能性が高いです。民国89年7月1日なので、西暦にするときは1911を足して2000年というわけです。 |