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推薦辞書・レトロ語彙編

Since 2008/4/21 Last Updated



  1. 青蛙亭流おすすめ辞書とは?
     どんな学校でもおすすめの辞書を指定していて、新学期のガイダンスなどで指導しています。当塾も一応「塾」であるからには推薦辞書を定めておきましょう。ただしあくまで青蛙亭流に、
    1. レトロな語彙に強いこと(→このページ)
    2. 台湾華語(台湾国語)にやさしいこと(→台湾華語編)
    3. 漢文に強いこと(→準備中)
    といった3つの観点で辞書を選んでみましょう。
     さしあたりこのページはレトロ語彙編として第一の観点から選びます。あとの2つはそれぞれ別のページ(上参照)とします。



  2. 辞書の時代を画した『現漢』
     上の3つの観点のうち、「レトロ中国語」「台湾華語」という2つは密接に関連があります。
     というのは、大陸の普通話がその成立の過程で切り捨ててきた伝統的な字音や語彙が、台湾華語に残っているというケースが実に多いのです。つまりは当塾のおすすめ辞書は、大陸の普通話の洗礼を受けていないものということになります。
     大陸で『现代汉语词典』(現代漢語詞典。以下「現漢」)が出てからというもの、日本の中日辞典はみんなこの辞書の影響を強烈に受けています。例文が同じ(あるいは単語だけ入れ換え)とか、説明がそっくりなんてザラですもん。
     で、『現漢』というのは大陸の普通話の規範意識が非常に強い辞書で、規範に合わない異読や語彙をほとんど載せていません。その傾向は『現漢』を下敷きにした日本の中日辞典にも引き継がれているのです。
     当サイトの『WEB支那漢』(支那文を読む為の漢字典)を見ると、発音が今の普通話と違う字がけっこうあります。これは決してWEB支那漢の間違いではなく、普通話が切り捨ててしまった伝統的な字音なのです。レトロな中国語ではこのような字音で読んでいたわけですし、台湾華語では今でもそのような字音で読んでいたりします。
     WEB支那漢は単字字典ですので語彙の状況はわかりませんが、語彙についてもそのような傾向があります。
     『現漢』が出たのが1978年ですので、『現漢』の洗礼を受けていない辞書を探すとすれば、70年代以前のものということになります。「そんな古めかしい辞書なんてもう売ってないのでは」と思いきや、意外に現役だったりします。ここではそういう辞書を紹介しましょう。



  3. 望ましい配列とは
     その前に、この場を借りて、語彙の配列法の話をしておきます。
     『岩波中国語辞典』のように完全ローマ字順というのは別として、たいていの辞書は、見出し字の下にそれで始まる語彙を並べる「漢和辞典方式」です。しかし漢和辞典と違って見出し字は発音順です。すると、多音字をどうするかという問題があります。いまの中日辞典は原則としてそれぞれの発音の場所にその発音に即した語義のみを載せるという方法をとっていますが、これはまさに『現漢』や『新華字典』の方法です。こういう点でも『現漢』の影響は大きいのですね。
     しかしこの方法では、読み方のわからない語彙がいったいどこに出てくるのかわからず、二度手間三度手間になりますし、読みの違いでどう字義が変わってくるのかがわかりにくいところがあります。漢文やレトロ中国語では一字語や臨時の合成語が多く、一字一字ひかねばならないので、ひとところにまとまっていたほうが便利なのです。
     この点、これから紹介する辞書は、完全ローマ字順の『岩波中国語辞典』は別として、すべてひとところにまとめる方法をとっています。別な字音の場合は、「こっちを見よ」と誘導されるわけです。ですから運が悪いと二度手間になりますが、同じ字が音の違いでどう意味が変化するかがよくわかって便利なのです。



  4. 『岩波中国語辞典』
     倉石武四郎著。1963/1990。岩波書店。ISBN4-00-080075-2。3200円+税。
     『岩波中国語辞典』といえば、完全ローマ字順のラディカルな辞書というイメージがありますが、意外にこの辞書はレトロ中国語にやさしいのです。
     この辞書は見た目がラディカルな割に実はできたのは古く、1963年です。やっと簡体字やピンインができたばかりで、普通話の規範はまだまだ確立されていません。おいそれと中国に行ける時代ではなかったので、北京語の達人・老舎の作品から用例をとったり、北京語のネイティブ・黎波先生から語彙をもらったりと、徹底して北京語にこだわった辞書です。
     このように独自のソースで作られているので、語釈や例文も非常にユニーク、しかも語彙は普通話が切り捨てたレトロなものを大量に含んでいるのです。
     当初出た版ではごく一部しか簡体字を採用しておりませんでしたが、1990年に全面的に簡体字を採用した版が出ました。今書店で入手できるのはこの「簡体字版」です。しかし内容的には全く手付かずですので、レトロなものに強いという特徴はそっくり温存されています。
     完全ローマ字順の辞書は、漢字で書かれた文章を読むには面倒くさいところがありますが、ローマ字主体のテキストを読むには便利なので、初学者の入門用辞書としては最適なはずです。しかし多くの大学の先生は岩波中国語辞典を勧めません。その理由はまさに「普通話に即していない」からなのです。しかし当塾は逆にこの理由によってこの辞書を勧めます。



  5. 大学書林『中国語辞典』
     鐘ヶ江信光著。1960。大学書林。ISBN4-47-500014-7。4410円。
     この辞書は見た目がいかにもレトロですが、簡体字使用率は『岩波中国語辞典』旧版と同程度です。1960年当時としてはかなり現代的だったといえるでしょう。とはいえまだまだ普通話の規範の確立前であり、語彙はレトロなものを大量に含んでいます。
     最近の中日辞典はどれもけっこう分厚くなっていますが、この辞書はかなりコンパクト、その割に内容豊富なので、けっこう便利に使えます。




  6. 光生館『現代中日辞典』
     香坂順一・太田辰夫著。1961。光生館。ISBN4-33-280003-6。2520円。
     現在書店で売られている商品の帯には、現代のピンインや簡体字に対応した唯一の辞典などといった内容のうたい文句があるようです(手元にないのでイイカゲン)。そんなバカなとお思いでしょうが、実は『現漢』以前に出た中国語辞典としてはホントなのです。初版は1961年と古いですが、こまめに改訂や増補を重ねてきたので、1982年に同じ光生館から『現代中国語辞典』が出るまでは、大陸の簡体字やピンインに完全対応した唯一の辞典だったのです。
     それだけに当塾としてはレトロという評価を下しにくく、評価としては中途半端です。



  7. 『中日大辞典』
     愛知大学中日大辞典編纂処・編。1968/1988。大修館書店。ISBN4-469-01215-7。8600円。
     「辞書マニアじゃないんだからいくつもそろえるなんてばからしい」というならこの辞書です。現代の語彙もレトロな語彙も幅広くカバーしていますから。
     現在出ているのは1988年の「増訂第二版」ですが、レトロな語彙や字音も抹殺されずに残っていますので、あえて旧版を古書店で探すという必要はありません。
     なお、高電社製中国語入力支援ソフトChinese Writer 9には、この辞書が電子化されて入っています。