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文法


このページは文法の基本事項として以下のようなことを扱います。

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  1. 「文法」について
     このページからしばらく文法のまとめをします。白文にアタックする前に、まずは文法を簡単におさえましょう。なお、漢文ではなぜか伝統的に「句法」とか「句形」などと言っていますが、ここでは文法ということにします。
     ここの説明は必ずしも順序どおりに読むことを想定しているわけではありません。後で説明される事項を平気で既知のこととして書いていたりするところがあります。ですからわからないところがあっても気にせずにざっと読み流す程度でけっこうです。必要に応じてあとから参照するようにしてください。

     漢文の文法に入る前に、このページではまず、基礎の基礎として、「日本語の文語文法」および「複音節語の構造」の話をします。
     訓読は文語で行われるので、文語文法を知らないと正しく読めません。とくに訓読派は、文語文法の知識をしっかり確認しておきましょう。
     また、漢文の複音節語(いわゆる熟語)は、実はほとんどが一字単位に還元することができるので、字典で一字単位で調べていくことになります。そこで複音節語の構造の把握が非常に重要になります。こんなの小学校でやったぞ、と馬鹿にせず、だまされたと思ってしっかり読みましょう。なお、ここは音読派も必須です。


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  3. 日本語の文語文法(いわゆる古典文法)
     漢和辞典の訓は辞書によっては口語になっていることがあります。実はそのほうが便利です。なぜなら文語では四段・上二段・下二段の終止形が同じ形になるし、ク活用とシク活用の終止形も同じ形になって逆に不便だからです。
     しかし実際に訓読するときには文語で読まねばならないので文語文法の知識が必要です。みなさんは中学・高校で文語文法をやったはずですから、語形変化を中心に簡単におさらいするにとどめますが、実は漢文では独特な語形も出てくるので注意が必要です。
     なお、以下は語を漢字交じりで書きますが、漢字だけで覚えずカナつまり日本語の単語として覚えることです。たとえばマ行上一段活用動詞に「見る」がありますが、これは「みる」というカナで覚えてください。漢文では「みる」と読む文字は「観」「看」「視」…など無数にあります。「見る」は上一段だと書いてあるけど「観る」はそう書いてないから違うと思った、などという屁理屈をくれぐれもいわないようにしてください。

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    1. 動詞
       日本語の動詞は文語では以下のように活用します。
      活用の種類例語未然形連用形終止形連体形已然形命令形
      四段活用読む
      上一段活用見るみるみるみれみよ
      下一段活用蹴るけるけるけれけよ
      上二段活用起くくるくれきよ
      下二段活用ぐるぐれげよ
      サ行変格活用するすれせよ
      ラ行変格活用
       「カ行変格活用とナ行変格活用はどこに行った?」という声が聞こえてきそうですが、漢文訓読では「来」はラ行四段活用の「きたる」、「死」はサ行変格活用の「しす」、「往」は「いぬ」とは読みませんので割愛しました。
       口語の五段活用動詞(「書く」「読む」などのように終止形が-uで終わるもの)は、以下に掲げる例外を除いてこの活用になります。基本的には仮名遣いが違うのみで口語と同じです。なお、「買う」「使う」のように「う」で終わるものは文語では絶対にハ行になるので「買はず」「使へ」などのように送り仮名をハ行にします。
       口語の上一段活用動詞(「着る」「見る」などのように終止形が-iruで終わるもの)は、文語では上一段活用になるものと上二段活用になるものとがあります。上一段活用になるほうが少数派なのでそれをまず覚えます(漢文訓読で出てこないものは省きました)。
      • カ行(「きる」の類)……着る
      • マ行(「みる」の類)……見る、省(かへり)みる、鑑(かんが)みる、試みる
      • ナ行(「にる」の類)……似る、煮る
      • ヤ行(「いる」の類)……射る、鋳る
      • ワ行(「ゐる」の類)……居る、用ゐる、率(ひき)ゐる
      • ヒ行(「ひる」の類)……干(ひ)る
       変な順番ですが、高校生に教えるときにこの順番に並べて「きみにいゐひ(君にいい日)」という語呂合わせをすることが多いのでこう並べます。
       ヤ行とワ行の区別に注意してください。ヤ行は送り仮名に登場することはないと思うのでワ行の「用」「率」を覚えます。もっとも「用ゐる」は近世以後ハ行上二段活用の「用ふ」のように書かれることが多かったので、和刻本では「ひ」とか「ふ」という送り仮名になっていることが多いと思います。
       残りは上二段活用になります。終止形・連体形・已然形の部分が口語と違います。「閉じる」のような「じる」で終わるものは必ず「閉ぢて、閉づる」のようにダ行になります。また「いる」で終わるもののうち、上一段になる上記「射る、鋳る、居る、用ゐる、率ゐる」を除いたものは、上述の「用ふ」を除けばあとは「老いる」「悔いる」「報いる」だけだと思います。これらはヤ行なので「老いて、老ゆる」などのようにします。うっかり「老ひて」などとしないこと。
       口語の下一段活用動詞(「投げる」「止める」などのように終止形が-eruで終わるもの)は、文語では下二段活用になります。なお、文語にも下一段活用がありますが、これは「蹴る」(口語では五段活用)のみです。
       仮名遣いが問題になるのは、口語で「える」で終わるものです。次のように四種類あります。
      • ア行……得
      • ワ行……植う、飢う、据う
      • ヤ行……「燃ゆ」「覚ゆ」など20数語程度
      • ハ行……その他(「耐ふ」「変ふ」など)
       まずア行は「得」およびこれで終わる「心得」などのみです。もっとも一音節動詞なので特殊な場合を除いて送り仮名に登場することはなく、あまり問題になりません。
       次にワ行の三語をしっかり覚えます。これらは「植ゑて」などのように「ゑ」を用います。
       残りのヤ行とハ行がやっかいです。ヤ行のほうが少数派なので出てきたら覚えましょう。コツは、「燃やす」「冷やす」「甘やかす」などのように「や」を使う派生動詞がないかどうかを考えます。もしそういう動詞があればヤ行という証拠ですから、「燃えて」「冷えて」「甘えて」はヤ行、だから「燃へて」としちゃダメ、と判断します。そういうもののない「覚ゆ」「見ゆ」は出てきたら覚えます。
       なお、ザ行とダ行もまぎらわしいかもしれませんが、口語では「ぜる」「でる」のように区別がハッキリするのであまり問題になりません。
       サ行変格活用動詞は「す」のみですが「○○す」などのように名詞などについて無数の動詞を作ります。このとき「重んず」などのように「ず」と濁ることがあります。
       ラ行変格活用動詞は終止形のみ四段活用と異なります。なお「いまそかり」は漢文訓読では登場しないと思います。


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    3. 形容詞
       日本語の形容詞は文語では以下のように活用します。
      活用の種類例語未然形連用形終止形連体形已然形命令形
      ク活用よしくんけれ 
      からかり かる かれ
      シク活用よろしよろしくんよろしくよろよろしきよろしけれ 
      よろしからよろしかり よろしかる よろしかれ
       口語で「-しい」で終わるものはシク活用、そうでないものはク活用になります。上下2段にそろえて書いていますが、上下両方あるものは、あとに助動詞が接続するときが下の形、そうでなければ上の形になります。
       なお、未然形の「くん」や「しくん」は通常の文典で「く」「しく」と書かれているのでびっくりなさったかもしれません。この形は「よくば」「よろしくば」のように助詞「ば」が接続する形ですが、漢文訓読ではこのとき「よくんば」「よろしくんば」のように余計な「ん」が入るので上のようにまとめました。


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    5. 助動詞
       漢文訓読に出てくる可能性のあるもののみにしぼります。意外に多くありません。
      未然形連用形終止形連体形已然形命令形接続
      るるるれれよ未然形
      らるられられらるらるるらるれられよ未然形
      しむしめしめしむしむるしむれしめよ未然形
      しか連用形
      たり(1)たらたりたりたるたれたれ連用形
      エ段
      未然形
      ずん   未然形
      ざらざり ざるざれざれ
      べしべくん・べけべくべしべきべけれ ウ段
      べからべかり べかる べかれ
      なりならなり・になりなるなれなれウ段・名詞など
      たり(2)たらたり・とたりたるたれたれ名詞など
      ごとしごとくんごとくごとしごときの・が
       「る」「らる」は文法-受身で登場しますが、未然形がア段で終わる動詞つまり四段動詞には「る」、その他の動詞には「らる」という役割分担があります。
       「しむ」は文法-使役で登場します。「す」「さす」は漢文訓読では用いません。
       「き」は過去であることを明示するときに使います。漢文は時制が存在せず、過去も未来も語形変化しないので、訓読でも時制を明示しなくていいのですが、どうしても過去であることを明示したいときに「き」を用いることがあります。なお、サ変動詞に接続するときは「しき」「せし」「せしか」のように、「き」だけは連用形に、他は未然形に接続します。
       「たり(1)」も過去を明示するときにオプション的に使います。
       「り」も過去を明示するときにオプション的に使います。サ変動詞の未然形と四段動詞の已然形または命令形にしか接続しません(よく「サ・未、四・已」で「さみしい」という語呂合わせで覚えます)。要するに「せり」「書けり」のようにエ段音に接続するということです。
       「ん」というのは「む」のことです。漢文訓読では通常「む」と表記することはありませんし、已然形の「め」も登場しません。
       「ず」の上下の区別は形容詞同様、後が助動詞のときは下段です。漢文訓読では「ぬ」「ね」は登場せず、必ず「ざる」「ざれ」となります。なお、未然形の「ずん」は、やはり「ずんば」のように「ば」が接続するときの形です。それから表では割愛しましたが、「ず+ず」→「ずんばあらず」という変な形があります。詳しくは文法-否定で。
       「べし」の上下の区別は形容詞同様、後が助動詞のときは下段です。「べかれ」は実際には出てこないと思います。未然形の「べくん」は「ば」の接続する形。また「ん」がつくときには「べけん」という形になります。終止形に接続しますが、ラ変動詞の場合は「あるべし」連体形に接続します(要するにウ段に接続するということです)。形容詞や「ず」もラ変的なので「なかるべし」「ざるべし」のように連体形に接続します。
       「なり」の連用形の「に」は「にあらず」「にして」などというときの「に」で、助詞だと思っている人が多いかもしれません。まぁ高校の定期テストや大学入試ならともかく、漢文訓読では助詞だと思っていても実害ありません。「べし」同様に終止形に接続しますが、ラ変動詞の場合は連体形に接続します。また、助動詞のくせに形容詞には「き」のほうに接続します。「よかるなり」でなく「よきなり」です。さらに名詞などいろいろな語に接続します。
       「たり(2)」の連用形の「と」は「として」というときの「と」で、助詞だと思っている人が多いかもしれません。助動詞のくせに動詞には接続せず名詞に接続します。
       以上「なり」「たり」は通常の文典では形容動詞に分類する場合がありますが、形容動詞と助動詞との識別は高校の定期テストや大学入試には必要ですが漢文訓読では不要です。
       「ごとし」の前は助詞「の」「が」になります。


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    7. 助詞
       通常の文語の文典にはなぜか出てこないのですが、接続助詞の「も」を覚えておいてください。実によく出てきます。連体形に接続して主に逆接の意味になります。
       あとは特に問題ありません。




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  4. 送り仮名
     原文に訓点として送り仮名をつけるときは、字の右下にカタカナで表記します。再読文字の場合は一回目の送り仮名を右下に、二回目の送り仮名を左下につけます。当サイトでは横書きの関係でいきなり書き下し文にしてしまうので用いません。
     なお、書き下し文を書くときは、通常送り仮名はひらがなにします(カタカナという流儀もあります)。その際、助動詞・助詞にあたるものはひらがなにします。たとえば「読ま不」ではなく「読まず」とするのです。もっとも「如し」「可し」などは漢字で書いたほうが読みやすいかもしれませんし、助動詞や助詞以外でも「纔かに」などという読みにくい字は「わづかに」と仮名書きしたほうがよいかもしれません。


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  6. 返り点
     字と字の間の左下につけます。当サイトでは「不読」のように下に書きます。
     直前に返るときは「レ」、飛ばして返るときは「二」「一」を用います。たとえば「不必読書」(必ずしも書を読まず)は「不必読一レ書」のように書きます。「書」から「読」へは「直前に返る」関係になるので「不必読」のように書いてはいけません。
     「一・二」を飛び越すときには「上中下」、さらに「甲乙丙丁」「天地人」などを用います。
     複音節語に返るときは「閲読之」だけでは誤読の可能性があるので「閲」と「読」の間に「-」をつけたりすることがありますが、絶対につけねばならないものではありません。


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  8. 複音節語(熟語)の構造
     漢文は基本的に一語=一字なのですが、二字以上が組み合わさって複音節語(いわゆる「熟語」)を形成することがあります。
     が、複音節語といってもたいていの場合は一字一字の独立性が強く、本当に複音節語なのか、単に複数の語が並んでいるだけなのか、区別が付かないことが多々あります。たとえば「讀書百遍」はふつう dúshū bǎi biàn という単位に区切って読み、訓読ではそのまま「讀書百遍」と読みますが、 dú shū bǎi biàn と区切って「書を讀むこと百遍」と読めなくもありません。
     こんなふうに漢文では語の区切りが非常に不明確で、だからこそ漢字では語と語の間に空白などを入れないわけです。熟語のほとんどは字単位に還元することができます。本当の(狭義の)熟語とは「葡萄」などのように「葡」と「萄」に分けてしまうとそれぞれが意味をもたなくなるものや、「矛盾」などのように特定の故事を知らないと意味がわからないものに限られるといえます。それ以外は熟語ではなく一字単位に分解して考えればいいのです。だから漢文では伝統的には辞典でなく字典、つまり字単位のdictionaryを用い、一字単位に還元して解釈していくわけです。
     そこで、複音節語に見える語の構造の把握が重要になります。字典をひいても字の意味しかわかりません。構造を把握しないと全く文の読解ができなくなります。以下、「こんなの小学校でやった」などと馬鹿にしないで、しっかり読んでください。
     特に音読派は必須です。構造がわからなくても字をそのまま読めば音読はできてしまうので、音読派はどうしても語の構造の把握がおろそかになってしまうからです。
     以下、構造別に例語を挙げ、ことさらに分けて訓読する場合にどう処理するかを中心に説明します。もちろん絶対に分けて訓読しなければならないわけではありません。
    1. 並列……2つの字が並列になっている場合です。
      1. 名詞の並列……(例)男女 nánnǚ 。2つの名詞が並立になっている場合です。訓読では「男と女と」のように2回「と」を用います。後半の「と」を抜かさないようにしましょう。
      2. 動詞や形容詞の並列……(例)宣傳 xuānchuán 、廣大 guǎngdà 。2つの動詞または形容詞が並立になっている場合です。訓読では「宣(の)べて傳(つた)ふ」「廣くて大なり」のように間に「て」を入れたり、また単に連用形中止法で「宣べ傳ふ」「廣く大なり」のようにしたりします。
    2. 主語と述語……2つの字が主語と述語の関係になっている場合です。
      1. 主語+述語……(例)日没 rìmò 。訓読では「日没す」のように、主語のあとには何も助詞をつけません。述語は終止形にします。
      2. 述語+主語……(例)立春 lìchūn 。このように述語+主語という順になっている語があります。他には「降雨 jiàngyǔ 」「有罪 yŏuzuì 」などもそうです。中国語は「既知情報が先、未知情報が後」というのが大原則なので、「(季節が変わったなと思ったら)春になったんだ」「(何か降ってきたなと思ったら)雨だったんだ」「(何があるかといえば)罪があるんだ」というような場合、春や雨や罪を後ろに持ってくるのです。このうち「有」「無」「多」「少」で始まる語は、「罪有り」のようにひっくり返して訓読します(「罪」のあとにはやはり何も助詞をつけません)。その他は分解して訓読することはしません。
    3. 述語と目的語……(例)讀書 dúshū 、登山dēngshān 、爲人wéirén(人となり、人柄) 。下の字が目的語になっている場合です。日本語と語順が違うので、訓読では返り点を用いて下から返って読みますが、このとき目的語のあとには「を」「に」「と」のうちのどれかを送ります。含概していえば、「爲」などごく一部の動詞が「と」、あとは日本語で「を」を用いるケースでは「を」、その他は「に」とします。
    4. 修飾語と被修飾語……2つの字が修飾関係になっている場合です。
      1. 名詞を修飾する……(例)流水 liúshuǐ、白雲 báiyún、城門 chéngmén 。訓読では「流るる水」「白き雲」「城の門」のように、動詞や形容詞の場合は連体形、名詞の場合は「の」をつけます。動詞や形容詞の場合でも、非常に複雑な構造の場合には「流るるの門」のように「の」をつけることもまれにあります。
      2. 動詞や形容詞を修飾する……(例)多讀duōdú 、共學gòngxué 、氷解bīngjiě 。訓読では「多く讀む」のように連用形にします。「共に學ぶ」のように副詞的な字の場合は読み方が字によって決まっているのでそれに従います。「氷解」のような名詞のときは訓読しようがなく、分解して訓読することはしませんが、意味としては「氷が解ける」のでなく「氷のように解ける」のです。もっとも「氷が解ける」でも「氷解」なので、しっかり構造を見極めることが必要です。
    5. 文法的な語がついた語……2つの字のどちらかが文法的な語になっている場合です。
      1. 助動詞的な語が上についたもの……(例)不和bùhé 、被害bèihài 。訓読では「和ならず」「害せられる」のように、下から上に返って読みます。その際に送り仮名をどう処理するかは、たとえば「不」ならば「未然形にして『ず』と読む」というふうに、語によって決まっています。これらは今後の文法でいろいろ出てきます。
      2. 状態を表す接尾語が下についたもの……(例)決然 juérán(きっぱりと) 、断乎 duànhū (絶対に)、莞爾wǎn'ěr (にっこりほほえむさま) 。たいていは訓読しようもなく、そのまま音で読みます。末尾は普通「たり」をつけて「断乎として」とか「決然たり」などのようにします。いずれにせよこういう語は、わかったような気になってしまうのが危険なので、「どういう様子なのか」「どういう場面や文脈で使うのか」を辞書でしっかり確認することです。
    6. 本当の複音節語……2つの字を分解することのできない真の複音節語であり、分けて解釈しないよう、あらかじめしっかり辞書で確認する必要があります。
      1. 外来語……(例)葡萄 pútáo、蒙古 měnggǔ 。「葡萄」はそれぞれの字が単独に用いられることは通常ありません。単字主義の「字典」では上の「葡」で引きますが、親字説明でいきなり「葡萄」をあげて説明するのがふつうです。「蒙古」のように分解してそれらしい意味が読み取れてしまうものは誤読の危険があるので注意が必要です。また多音字の場合は読み方にも注意しなければなりません。「蒙」は「蒙古」のときだけ3声であり、通常は2声です。そういう読みわけは漢和辞典はもとより、中国で出た辞典でも部首画数順のものでは不明確になりがちで、こういうときは大陸のローマ字順の辞典に頼るのが確実ですが、その一方で大陸のものは簡体字を使っており、「朦朧」の「朦」も「蒙」と書いてしまっている(このときは1声)ので混乱のもとになります。
      2. 故事成語……(例)「矛盾máodùn」は韓非子Hánfēizǐ に見える「どんな盾も突き通す矛と、どんな矛も防ぐ盾とを売る商人に客が、その矛でその盾を突いたらどうなるかと質問したところ答えに窮した」という話から「つじつまのあわないこと」の意味で用います。「矛(ほこ)と盾(たて)と」のように分解訓読しないようにしますが、長い語句の場合は訓読することもあります。
      3. 擬声語・擬態語……(例)洋洋yángyáng(ひろびろしたさま)、淋漓 línlí (水滴などがぽたぽた落ちるさま)、彷徨pánghuáng(ふらふらとさまようさま) 、從容cóngróng(落ち着いたさま)。擬声語・擬態語の多くは、「洋洋」のように同字を重ねたもの(「々」のようなおどり字を用いないこと)、「淋漓」のように同じ声母で始まる双声語、「彷徨」「從容」のように同じ韻母で終わる畳韻語になっています。なお、双声・畳韻語は現代音で読んだ場合にはうまく双声・畳韻になっていないこともあります。訓読では「彷徨(さまよ)ふ」のように強引にフリガナを振って読む語もありますが、たいていは訓読しようもなく、そのまま音で読みます。末尾は普通「たり」をつけて「洋洋たり」とか「洋洋として」などのようにします。いずれにせよこういう語は、わかったような気になってしまうのが危険なので、「どういう様子なのか」「どういう場面や文脈で使うのか」を辞書でしっかり確認することです。

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