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製品レビュー:漢語大詞典 光碟繁體單機3.0版

Since 2008/5/26 Last Updated



  1. 製品概要
     『漢語大詞典』(以下『漢詞』)は大陸における大型辞書の最高峰として、日本の『大漢和辞典』(以下『大漢和』)、台湾の『中文大辞典』などと並び称されるものである。
     一般に大型辞書はそれだけで権威を持つものであり、言葉の意味や用例を論ずるのに「○○辞典にこうある」と言っておけば、プロなら失格であるが畑違いの場合には十分である。従来はこういうときは『大漢和』の一人舞台だったものだが、『漢詞』が出て以来、だんだんその地位を『漢詞』に譲りつつあるようだ。
     たとえば岩波新書の『科学論入門』(佐々木力著。1996)は、「科学」だの「技術」だのという漢語の意味を論ずるのに、『漢詞』を引いている。科学論というまるきり畑違いの場で中中辞典なんか引きにくかろう、『大漢和』にすればいいのにと思うのだが、『大漢和』の用例は必ずしもその語の最初の用例とは限らないが、『漢詞』の場合は原則として、その語が古典に登場する最初の用例になっているようだ。そういう点で『漢詞』は使いやすいのだろう。
     『漢詞』が最初に出たのは1986年と、大型辞書としては後発組になるのだが、逆にそれが強みとなり、当初から電子化プロジェクトが進行し、1998年には早くもバージョン1.0のCD-ROMが出た。これは用例を載せない不完全な版であったが、2003年に出たバージョン2.0では用例も載り、そして、ここに紹介する2007年の3.0は、Unicodeに対応して外国のWindowsでの動作も保証されるものとなった。
     このように『漢詞』のCD化が着実に進行し、ますます使いやすくなると、いっこうに電子化されない『大漢和』に愛想をつかして、今後は日本の読者も『大漢和』でなく『漢詞CD』をひくようになるのかもしれない。
     しかしその一方で、『漢詞CD』3.0は、後述のようにきついコピープロテクトがかかっている点が使いにくい。また、日本語Windowsで動くとはいえ、やはり中中辞典であるから、中国語を知らず漢文のみが目当ての読者に使いやすいかどうかは疑問である。
     ここでは、こういう点を中心に、『漢詞CD』3.0の使用感をまとめてみた。



  2. 動作環境
     上ではいきなり『漢詞CD』などと略記してしまったが、正式な製品名は、『漢語大詞典 光碟繁體單機3.0版』という。商務印書館(香港)有限公司、1200HKD。日本の中国書籍専門店の販売価格の相場は37500円である。
     CD-ROM1枚に、93ページのマニュアルがついている。このマニュアルはパッケージをかねているため表紙が分厚いボール紙になっており、ページを開けにくい。ボール紙を破ってしまえばいいのだが、高いカネを払って買ったものを破く勇気が今ひとつ起きない。こういうところが貧乏人の悲しい性である。
     製品に記された動作環境は以下のとおり。
    • OS:Windows® Vista/XP/2000
    • CPU:Pentium III以上
    • メモリ:256MB以上
    • ディスク容量:400MB以上
    以下は動作環境に関する青蛙亭主人の補足である。

    • Windows 95/98/MeはOKか
       ダメ。インストール時にOSのバージョンをチェックしているのでインストールができない。



    • 他言語WindowsはOKか
       OK。インストール時には英語/簡体字中国語/繁体字中国語/日本語/韓国語を選択するが、これ以外の言語でも英語でインストールすれば問題ない。
       もちろん簡体字中国語と繁体字中国語のフォントとIMEがインストールされていなければ前もってインストールしておく。XPならば最初から入っているのだが、2000の場合はWindows2000のCD-ROMを用意して自分でやらねばならない。
       なお、言語を日本語にしたからといってメニューが日本語になるわけではない。あくまでOSの言語を指定するというだけである(しかしそれなら自動判別すればいいのに)。



    • データをハードディスクにコピーして使用できるかどうか
       できない。CD-ROMにはSecuROMというコピープロテクトがかかっており、実行時に原本CD-ROMがどこかのCDドライブに入っているかどうかをチェックしている。しかも起動時ばかりか一定時間ごとにチェックしており、途中でCD-ROMを抜くことができない。抜くとすぐに警告が出るのだ。ハードディスク上にCDをまるごとコピーしたり、仮想CD-ROMドライブを構築するユーティリティを用いてもダメ。CD-Rに焼いたものもダメ。かなりきついコピープロテクトである。
       あまりにプロテクトがきつすぎて、青蛙亭主人の使用しているスペックの低い旧式マシンではチェックに失敗して「バックアップディスクです」だの「タイムアウト」だのと表示されることも多い。高いカネを払って正式に購入しているというのになんとも困ったものである。
       実はデータ本体はすべてハードディスクに入っており、CD-ROMは単にオリジナルをもっているかどうかのチェックの機能しか果たしていない。そんなバカげたことのためにCDドライブが一つふさがれっぱなしになってしまうというのはまったくやりきれない。
       旧2.0ではこのようなプロテクトはなかったらしく、データをすべてハードディスクにコピーして設定を変更するウラ技があちこちのサイトやブログに書かれているが、3.0ではその手は通用しないので注意である。





  3. 実行時の注意
     上述のようにCDドライブにオリジナルのCDを入れておく必要がある。実行時には常時メディアチェックをやっているのでCDを抜かないことである。
     低スペックのマシンでは起動にずいぶん時間がかかる。その多くがオリジナルチェックに費やされているかと思うとやりきれない。
     そしてプログラム本体が起動する前に、タスクトレイ(特に設定を変えていない限り画面下にあるはずのツールバーの一番右、時刻などが書いてあるところである)に次のようにアイコンが表示されているはずである。
     低スペックのマシンで動かすときは、プログラム本体が起動するのを待つことなく、このアイコンが出たらすばやくクリックして、「開啓屏幕取詞」についているチェックを「暫停屏幕取詞」につけるとよい。
     この機能は、スクリーン上に表示されている字にマウスカーソルを合わせるだけで、その字の発音や意味を表示するという機能である。なかなか便利には違いないが、低スペックのマシンでこれをやるとかなりイライラするはずである。おまけにアプリケーションの文字コードによっては文字の取り込み時に文字化けしてしまって使い物にならない。よほどこの機能が必要というのでない限り、OFFにしておいたほうがよいだろう。



  4. 『漢詞』自体の特徴
     そもそも『漢詞』とは、どういう辞書なのだろうか。
     上述のように『漢詞』は『大漢和』のお株をだんだん奪いつつあるようなのだが、はたして『漢詞』は本当に『大漢和』の代用になりうるのだろうか。
     答えはNOである。中中辞典であるから日本語の説明は載っていないという当たり前の話はおくとしても、かなり性格が違うのである。
     各種大型辞書の特徴の違いは稿を改めて論じようと思うが、とりあえず『漢詞』に限っていうと、『漢詞』の最大の特徴は、人名・地名・書名などの固有名詞を原則として収録していないことなのである。この特徴は人によってはかなり致命的な欠点になるであろう。百科事典がわりに『大漢和』を使っている人は、『漢詞』は使えない。『辞海』その他、しかるべき別の辞書が必要となる。
     逆に『漢詞』は、古代から現代までの語義が連続的に載っていることである。特に宋代以後の語彙に強いし、古典の用例と近現代の用例を対比するのにも便利である。また仏教語も排斥せずに載せている。こういう点は、白話・現代語ナシ、仏教語ナシの『大漢和』に比べて役に立つ点だろうとは思うが、茅盾や老舍の小説の用例などあげられても、漢文オンリーの私にはそんなのまるきり必要ない、という人も多いかもしれない。
     このように、大型辞書にはそれぞれ得意不得意の分野があるので、『大漢和』のかわりに『漢詞』というわけにはいかないのだ。中国畑の学生は最初にこういう各種工具書の性格をたたきこまれることだろうが、畑違いの人はそうでもないだろうから、注意すべきである。



  5. 『漢詞CD』とオリジナル『漢詞』との相違点
     次に『漢詞CD』は、オリジナル『漢詞』の忠実なCD化ではない。この点も注意である。
     『漢詞CD』にはオリジナルのすべての字が入っているわけではない。Unicodeに入っている文字に限って電子化しているので、Unicodeにない文字はまるきり無視しているのだ。オリジナル『漢詞』は親字が30000余字らしいが、『漢詞CD』は13069字しかない。Unicodeにない文字を独自にコード化したり画像化したりなどということは一切やっていないのである。この点がどうしても気になるのであれば、オリジナル『漢詞』と併用することである。
     オリジナル『漢詞』は親字が繁体字だが説明は簡体字である。が、『漢詞CD』ではすべて繁体字である。これはむしろ長所というべきであろう。一般に、繁体字→簡体字の変換は一律にできるが、簡体字→繁体字の変換は迷うことが多い。古典を読む場合にはオール繁体字に限る。オール繁体字の『漢詞』は紙媒体としては存在しないので、オリジナルを持っている人もCDはぜひそろえたいところである。
     オリジナル『漢詞』は部首-画数順であり、索引は総画とピンインしかない。日本の花園大学の禅文化研究所から『多効能漢語大詞典索引』が出ているのだが、そういう別売り索引の一つとして、『漢詞CD』は役に立つことだろう。『漢詞CD』で親字の情報を表示するボタンを押すと、12巻本の何巻何ページに載っているかという情報も出てくる。ただし、『多効能~』もそうだが、12巻本にしか対応していない。紙媒体の『漢詞』には、22巻本、12巻本、縮印(3巻)本の3バージョンがあるのだ。パーソナルユースでは縮印本を使っている人が多いことだろうからいまいち不便である。なお、12巻本→縮印本のページ数換算をしてくれるサイトがあるので紹介しておく。→霧麓齋



  6. 検索機能
     漢詞CDの検索プログラムは現漢CDの検索プログラムととても似ているので現漢CDの記事をあわせ読んでもらえるとありがたい。ただし現漢CDでは多くの機能がツールバーのボタンにわりあてられ、そのボタンの意味がいまいちわかりにくかったのだが、漢詞CDではほとんど文字になっているし、ボタンにマウスを近づけると機能の説明が出てくる。この点は使いやすい。
     請輸入字と書かれた入力窓に直接文字を入力するときは、必ずしもBIG5IMEにする必要はない。正しく入力できるのであれば日本語IMEでもかまわないのだ。もっとも、しっかり繁体字で入力すること。たとえば「徳」でなく「德」でなければダメとか、「没」でなく「沒」でなければダメだというのに注意。何なら今昔文字鏡の検索プログラムを用いて、テキストまたはUnicodeでコピーしたものでもよい。そういうものが文字化けせずに貼り付いてくれるのは快感である。もちろん漢詞CDの右側に表示された語義の文字をコピーし手貼り付けることもできる。そんなの当然だと思うかもしれないが、繁体中文仕様の『現漢CD』をApplocaleユーティリティを用いて日本語Windowsで動かしているとそういうことすらダメなのだから、たぶん現漢CDの2.0でもダメだったろう。こういう点は日本語Windows正式対応のありがたみである。
     マウス右クリックでできる機能がいろいろあり、使いこなすと便利である。たとえば右側の語義の文字の意味がわからないとき、いちいちそれをコピー&ペーストする必要はない。右クリックして「釋義查詢」を選ぶとその字の説明に飛んでくれる。元に戻るときはマウス右クリックで「回退」である。
     『現漢CD』同様、左側のモードは「字查詢」「詞查詢」「成語查詢」の3つがある。普通の使い方ならば親字の下にその字で始まる詞や成語が出てくるので「字查詢」だけで十分なのだが、「×字で終わる語」とか「×字で終わる3字語」とか「2字目が×で4字目が△の四字熟語」などといった検索をする場合には、「詞查詢」が偉力を発揮する(「成語查詢」でなくても成語も出てくるので「成語查詢」の使い道は少ない)。これがあれば多効能索引は不要になろう。



  7. 通販で購入するときの注意
     『漢詞CD』は中国書籍専門店で扱っているが、37500円ととても高価である。リンクページに掲載している書虫では30000円。しかし本来は1200HKD(約16800円)、台湾の価格は5520TWD(約18800円)であるから、どちらにしろ20000円でお釣りが来るはずである。これはぜひ通販で香港や台湾から入手したい。
     ただし海外から購入する場合、送料がバカにならない。送料の高い業者の場合、送料だけで10000円くらいかかってしまうし、安いところでもけっこうする。おまけにこのような金額の製品の場合、関税がかかってしまったりもする。通販で買うときは、各業者の日本向け送料をしっかり比較することである。



  8. 総合評価
     『漢詞CD』は、用例を載せるようになったバージョン2.0から日本の中国畑の研究者や学生の注目を浴びてきた。2.0は繁体中文Windows専用ながら、みんな裏技を用いてでも日本語Windows上で使用しようと試みたものであり、さまざまなサイトやブログにそのやり方が書いてある(当サイトには書いていないが、『現代漢語詞典 繁體版光盤』の記事を参照。ここに書いてあるのと同じ方法であるから)。だからUnicodeに対応し日本語Windowsでの動作も保証された3.0の登場はまさに朗報なのだが、プロテクトの問題や、Unicodeにある字しか載っていない問題などがあり、手放しでおすすめできないところがある。が、こうした問題があることを承知のうえでも、これだけの大部の辞書をパソコンで手軽にひけるのはすばらしいことである。2.0の段階で購入をためらっていた人は、ぜひ購入するとよいだろう。